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ティップとフロッグ
ティップは弓の先端、フロッグは弓の元にある毛箱の部分を指します。(写真ご参照ください)
子どもにとって、バイオリンの最初の難関は「弓の持ち方」です。
バイオリニストはまるで簡単そうに、馬のしっぽの毛が張られた木の棒を持っているように見えますが、
初心者にとって“正しい弓の持ち方”は、かなり摩訶不思議な手の形に感じるようです。
まずは右手の親指・中指・薬指で「キツネを作りましょう」。
その形のまま、弓のフロッグあたりを持たせます。
人差し指の第1関節を軽く曲げてサムグリップ(クッション部分)に添え、
小指は馬毛を調整するスクリュー(ネジ)の近くに優しく指先を乗せます。
…と、文字で説明しても「???」となりますよね。
小さなお子さんには、私がお手本を見せながら指を一本ずつ正しい位置に置いても、まず持てません。
持てたとしても3秒、というところです。
そこで、私の教室では“弓の持ち方養成ギブス”として輪ゴムを使います。
…ただの輪ゴムです。
フロッグの部分に右手薬指を固定するために輪ゴムを通し、それから他の指を整えていきます。(写真ご参照ください)
いつもクスリを塗る時くらいしか活躍のない薬指が、こんなに重要だったの?と思うほど、
弓を持つときに薬指が安定すると音が変わります。
また、小指もただ添えているだけのように見えますが、実はこの弓のバランスを取っているのは小指です。
まとめると――
・親指が弓を支え
・人差し指が弓に圧をかけ
・中指と薬指がしっかりと弓を抱え
・小指が比重のバランスを取る
…あぁ、書いているだけで弓を投げ出したくなります。(もちろん、死んでも投げませんが。)
そしてやっと弓が持てるようになったと思ったら、次はボーイングです。
FROGからTIPへ(ダウン)、TIPからFROGへ(アップ)。
ゆっくりと“全弓”を使うことさえ、最初はとても大変。きちんと全弓が使えるようになるまで、何ヶ月もかかることもあります。
バイオリンというと、左手の神業のような超絶技巧の動きに「おぉ〜👏🏻」となりがちですが、実はボーイング(弓使い)もそれと同じくらい、いえ、それ以上に難しいコントロールを求められるのです。
私自身、先生が変わったときに「弓の持ち方とボーイングを1からやり直し」と言われ、1ヶ月間、開放弦のA線しか弾かせてもらえませんでした。
毎日毎日、FROGからTIP、TIPからFROGへ、ただそれだけを何時間も。
受験前だったので「試験曲、やらなくていいのかなぁ」と内心ヒヤヒヤしながらも、
先生のOKをいただけるまでA線を弾き続けました。
けれど、少しずつ正しいボーイングが身についてくると、練習曲をひとつ弾くだけで、音が無理なく素直に出て、
p(ピアノ)やf(フォルテ)もつけやすくなり、なにより音がきれいになったのを自分でも感じました。
あの小学6年生4月の1ヶ月間は、私にとって本当に大切な時間だったのだなと、
いまも生徒さんに弓の持ち方を教えるたびに思い出します。


